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高松家庭裁判所 昭和46年(少)52号 決定

少年 Y・K(昭二六・八・二生)

主文

少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、自動車運転の業務に従事する者であるところ、昭和四五年一二月一八日午後五時三〇分頃、普通乗用自動車(香○×○○-○○号)を運転し、時速約六五キロメートルないし約七〇キロメートルで、香川県高松市○○○町○、○○○の○番地先県道(幅員約八メートル)を東から西に向つて進行中、およそ運転者たる者は、前方及びその左右を注視して事故の危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、対向車に気を奪われて漫然進行した過失により、折柄前方道路右側から左側へ自転車を押して横断せんとし、道路中央線と右側車両外側線とのほぼ中間の地点(道路右側より約二・四メートルの地点)で佇立している○安○三○(当時七四歳)、○橋○六(当時七五歳)を五四・四メートル手前に至つてはじめて発見したが、同人らにおいて避譲するものと軽信して、警音器を一度吹鳴したのみで同一速度で進行を継続し、同人らが進路前方に進出してきたのを約三二・六メートル手前で認めて危険を感じ、直ちに急停車の措置をとると共にハンドルを右に切つたが、時機すでに遅く、自車左前部を同人らに衝突せしめ、よつて同人ら、それぞれを頭蓋底骨折左下開放骨折により即死させたものである。

(適条)

刑法第二一一条前段

(処遇)

一  少年の資質、性行、環境等は、家庭裁判所調査官佐々木芳文作成の少年調査票および少年鑑別結果通知書各記載のとおりであつて、少年は、末子の一人男子として我儘に育てられた等のことから、意志が弱く、耐性に乏しく、自己中心的、利己的で、自省心一貫性、熟慮性を欠くきらいがあつて、付和雷動的、即行的に反応しやすい傾向があり、自動車運転態度検査によると、交通法規軽視、感情的、緊張感欠如の運転態度が明らかである。

二  少年は、中学三年時に原動機付自転車の無免許運転をして、試験観察の後、昭和四三年二月、不処分決定を受けたが、同年八月、軽免許を取得し、昭和四四年八月、審査合格により普通免許を取得したところ、軽四輪自動車の定員外乗車により同年一〇月、不開始決定を受け、さらに、普通乗用自動車による駐停車違反により昭和四五年一一月、反則金三、〇〇〇円を納めたもので、一か月に約三〇〇キロメートルないし約五〇〇キロメートル運転走行していた。

三  本件は、大阪より帰る友人を出迎えるため、その家人の世話で自動車を借りて他の友人を同乗させて運転中の事故で、すでに暗くなつた道を前照灯を減光状態にしたまま法定の最高速度を超えて運転し、対向車に気を奪われて前方注視を怠り、しかも、発見後、直ちに急停車の措置をとつたとしても衝突の可能性がある状態であるにもかかわらず、道路に進出してきていた被害者を発見しながら、避譲するものと勝手な判断をして、進行を継続したもので、少年の自己中心的な物の考え方、安全運転軽視、緊張感欠如の運転態度をそこにみることができる。

四  ところで、本件については、少年の年齢が一九歳で、成人に近く、また二名を即死させるという重大な結果を惹起したことに着目すれば、少年を刑事処分に付するべきであるとする意見がありうるところである。しかしながら、年長少年の重大結果の交通非行事犯と雖も、保護の可能性の有無、程度につき慎重な判断をしたうえ、適正な教育的処遇を考慮するべきであり、安易、直ちに刑事処分と結びつけるのは相当ではなく、また、交通非行に対する刑事処分の効果、意義も具体的事犯に応じて考慮するべきであると思料する。

五  しかして、少年については、このままでは、将来、従来の運転態度が持続される可能性が強く、累非行性が顕著であること、刑事処分のうち懲役刑、禁錮刑の実刑は、例が少ない等のことから、実際上、少年刑務所における交通非行少年に対する処遇体制が完備されていないこと、執行猶予あるいは罰金刑は、本件少年に対する教育的処遇としての意味に乏しいと思われること、社会的責任は、現実の問題として、収容保護処分によつても十分に負担させうると考えられ、「刑事処分」ということが唯一のものとはいえないと思料すること等を考慮し、さらに、調査、審判にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、少年をして、交通法規、社会規範を遵守せしめて非行性を洗除し、健全な社会適応性を体得させるためには、この際、少年を施設収容による矯正教育(松山少年院で実施している長期三か月の交通関係短期教育訓練)に託するのが相当であると思料する。

六  よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 豊田健)

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